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スティーブ・ジョブズにバッタリ出会った人の話で面白いものを教えてください。

 

私が数年間付き合っていた若い女性の父親が、Palo Altoのスティーブ・ジョブズの家の近所に住んでいました。そのため私は夕食やパーティなどに参加するためにその地区をよく訪れ、ジョブス家の人たちが行き交うのをよく目撃していました。彼らが住んでいたのは、門も、警備員も、高い塀も、大きな駐車場すらない、"普通"の家でした。夜遅くに彼女の家でのパーティから帰宅する際、車で彼らの家を通ると、スティーブがMacで仕事をしているのを実際に見ることができました。

ある日の午後、私は当時不幸にも所有していた古いSunbeam Alpineのスポーツカーを運転して、パーティに参加しました。パーティが終わったあと、Alpineのエンジンをかけて路肩から離れようとしたとき、(年代物のイギリスのスポーツカーによくあるように)電気系にトラブルが起きてしまい、ジョブス家の前の私道に滑りこんでしまいました。

そこに車が停まっていないのを見て私は安心しました。彼らに変なストーカーと認識されると確信していたからです。私は車から降り、ボンネットを開け、少なくとも車を離れたところに移動させてAAA(自動車協会)に電話ができるように、応急処置をしようと試みました。

当然のことながら、15分もしないうちに、2台の車が後方からやってきて、ジョブス家の私道に入ってきました。ジョブス家が帰ってきたのです。私は彼らに気づかれないことを祈ってAlpineのボンネットの影に隠れましたが、道に停まっている車は私だけでした。幸いなことに、彼らは何も言うことなく、子どもたちと一緒に家の中に入っていきました。そして私はボンネットを閉じ、隣の彼女の両親の家からAAAに電話をかけるべく、歩き去ろうとしました。

上着を着ようとしたとき、私道の向こうから私を呼ぶ声が聞こえました。「イギリス製?イタリア製?」ジョブス家の素敵な奥様のローリーンでした。「イギリス製です。その通りの動きをしていますよ。」と私は答えました。「ビールはいかが?」と彼女は言いました。私は断ろうとしました(はじめはショックを受けていたのでしょう)が、彼女は「どこにも行けないんでしょう」と言って譲らず、家の中からビールを2本持ってきました。

私は、会話の相手が誰だか分かっていることを、認めない決心をしていました。ストーカーと判断されるのがとても怖かったからです。しかし、壊れた車の横に立ってスティーブ・ジョブズの奥さんとビールを飲んでいるという状況は、すでにかなり奇妙でした。そしてさらに奇妙な状況になるのです。

「私たちの友達で、こういう車のことをよく知っている人がいるの。電話してみましょう。」

私は、自分でAAAに電話をするからと、必死に断りました。彼女はビールを置いて家の中に入り、1分もしないうちに戻ってきて「どこかへ出かけるところみたいだけど、途中で寄って見てくれるって。」と言いました。

この時点で私は、これからの展開を完全に受け入れる気でいました。彼らはシリコンバレーのエリートではなく、かわいそうな男を助けようとしてくれている、生身の人間なんだと気づき始めていました。彼らの立場を踏まえて考えると、それはただただ意外でした。彼らは私を無視することも、警察に届けることもできたのです。

15分ほど経って、見たことのない長くて黒い車が登場し、中から ---フェリーニ監督でも描けないような--- タキシード(だと思う)を纏ったハンサムな紳士と美しく着飾った奥様が現れ、私の車を調べ始めました。彼はローリーンの友人で、Sunbeamの整備士でした。

私は強く遠慮しましたが、完全に無視されました。タキシードの男性は(今でも彼が何者かは知りません。ジェームズ・ボンドと呼んでおきます)上着を脱ぎ、ボンネットを開けて内部をいじり始めました。私たちはその様子を仲良く見学していました。

そして、スティーブが出て来ました。

これは避けられない状況であったのでしょうが、私は何年も前からスティーブの崇拝者だったので、期待しながらもビクビクしていました。彼はのんびりとやってきました。彼もビールを飲んでいたと思います。そして、何が起こっているのか尋ねました。彼のお子さんも1人出て来ました。

ジョブス家は、大変に着飾りながらも私の車を直してくれている友人たちと、他愛もない会話を交わしました。私はそのあいだ、丁重に何度も何度もお礼を言い、この異常な状況に吐いてしまわないように努めていました。そして、当然のことながら状況はさらに奇妙に、あるいは愉快になっていきました。当事者かどうかで捉え方は違うでしょう。

ジェームズ・ボンドがエンジンを手動でスタートさせるように誰かに指示をしました。私はローリーンと話していたので、ジョブス本人がAlpineに乗り込み、彼の子どもが後部座席にいる中で、エンジンをかけようとしました。しかしスタートしません。

それはシャッターチャンスのような、ずっと記憶に残しておきたい瞬間でした。美しい秋のPalo Alto。壊れた車。スティーブ・ジョブズの、正装した友人がエンジンを直している。私はスティーブの、紛れもなく素敵でそれでいて親しみやすい奥さんと話している。スティーブは子どもと車の中にいて、エンジンを手動でかけようとしている。

そんな状況です。ジョブスのような人と近づけることなど、ましてやこんな、彼らが実はただのとても良い人たちだと気づかされるような、おかしなシチュエーションは、そうそうないでしょう。彼らは普通で、おもしろくて、気前のいい、生身の人たちです。マスコミが言うような人たちではありません。スティーブは、メディアが喜んで表現するような、狂気じみたビジネスとデザインの独裁者ではありません。いや、そうなのだろうけど、常にではありません。本当にいる、親切な人達なのです。

それでも彼はスティーブ・ジョブズです。車は動きませんでした。ジェームズ・ボンドはタキシードを整え、車を直せなかったことを私に謝りました(!)。電気系の問題とのことでした(そりゃそうだ)。彼らは別れを告げ、巨大で静かな黒い車で走り去って行きました。そしてスティーブは「このクソが」みたいなことを言って車から降り、家の中に戻っていきました。よく知られたスティーブの姿です。そして彼は正しい。

ローリーンは「家の中で電話を使いなさい」と言いました。私はまだ流れに身を任せていたので、彼女を追って家の中に入り、誰の家にもあるような洗濯物をまたいでいき、コードがごちゃごちゃになった電話のあるキッチンに入りました。AAAに電話をし、ローリーンにしきりに(50回目くらいの)お礼を言って、静かに家を出ました。ずっと、彼らが誰であるのかを考えないようにしていました。

一週間後、お礼のメモと一緒に6本入りのビールをジョブス家の玄関に置きました。たぶん誰でもそうすると思います。

私はAppleの動向を追っています。かなりの数のApple株を所有しています。メディアが伝える、スティーブ・ジョブズの公の場での人格と評判を聞くことは避けられません。しかし、ここで見る他のエピソードもふくめて、私たちはジョブスと彼の家族の個人的な一面を聞くことや、理解することはありません。彼らのプライバシーは守られるべきだし、維持をするのは大変に違いありませんが、その一方で、ほとんどの人は彼らのフランクで普通な一面を知ることがないのです。私はスティーブの自伝を購入しましたが、まだ読み始めていません。スティーブ・ジョブズがいかにまともで、きっと優秀で、本物で、思いやりのある、夫であり、父であり、CEOであったかを、あらゆる視点から語られていたらいいと思います。優秀であるがゆえに、苦しんでいたことと思います。私は彼の、もっともプライベートな場面に遭遇しました。ある夜Palo Altoで、偶然壊れてしまった車をめぐって。私はとても幸運だったし、感激しました。

私がもっとも大切にしたい記憶のひとつです。

http://www.applieddesign.tv/stev...

  

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